子育て講座②「学校への要求」 監督 齊藤 秀樹
「全くあの親は、自分の子どものことしか考えていない。」現在、多くの学校の職員室で、電話を置いた教師から漏れる言葉の1つです。私はそんな姿を見るといつも、「保護者の要求というのは裏を返せば学校や教師への期待でもある。そうでなければあきらめて何も言ってこなくなる。親というのは教育の専門家ではなく素人なんだから、他の子の様子もわからないし、客観的な判断もできないことが多い。だからどうしても我が子のことだけを中心に考えてしまうものだ。しっかり話を聞いて要求の主旨をつかみ、丁寧に対応してあげなさい。そして少しずつ視野が広がるように、学校の役割や仕組みを理解してもらう努力をしなさい。」と言っています。
しかし近年どうしても受け入れられない親からの無理難題要求(イチァモン)が増えてきている気がします。今回はそのことについて考えていきます。
2008年にフジテレビで放映された「モンスターペアレント」というドラマが当時世間の注目を集めた。米倉涼子扮する敏腕女性弁護士が某市の教育委員会に派遣され、親のとてつもなく理不尽な要求、言動に正論で対抗するという物語だ。その中で、ある一人の母親が若手教師に対して執拗に文句を言い始めた。何でも我が子が日曜日にクラスの友だちと公園のジャングルジムで遊んでいた際、誤って足を踏み外し、地面に転落してケガをしてしまった。そのためしばらくの間学校を休まなければならなくなったそうだ。そこで母親の要求は「うちの子だけ勉強が遅れるのは不公平だから、学級閉鎖にしてほしい」というものだった。更に「学校は休日でも子どもたちの管理に責任を持つべきだ」にエスカレートし、つまり「うちの子がケガをしたのは学校の責任」だという主張です。まさに開いた口がふさがらないとはこのことである。おそらく多くの視聴者は、これはドラマだから大げさに脚本して…と思っただろうが、私には現在の親のあり得る一面を反映しているように思えてなりませんでした。
学校現場に寄せられるクレームや無理難題要求は多種にわたる。このことを紹介する刊行物も多数あるが、今回は私が今までに経験(担任、管理職、行政)したり、身近な現場の教師が実際に遭遇して困っていた事例を中心に紹介してみたいと思います。
・給食費を払わない親に払ってもらうようお願いしたら、「頼みもしないのに強制で給食を食べさせられている。」もし払えと言うなら「もっとましなものを食べさせてほしい。」「自分の子だけ別メニューにしてほしい。」…。
・授業に対して「うちの子は算数が好きだから、音楽や図工はやらずに算数の時間にあててほしい。」「塾の教材を使って授業してほしい。」「受験に関係の無い教科は自習にしてほしい。」
・うちの子の悪口を言っている子がいる。すぐに転校させてほしい。うちの子はデリケートなので、けっして叱らないでほしい。担任との相性が悪いのですぐ代えてほしい。
・うちの子が塾帰りに交通事故に遭った。これは学校が悪い成績を付け、塾に行かざるを得なくなったからだ。
・うちの子はきれい好きなので職員トイレを使わせてほしい。学校の清掃は業者がするべきだ。子どもにやらせるな。
・義務教育は無償なので、野球の試合で使ったユニホームは学校が洗濯しろ。
・学校の対応が悪いので、私立学校へ転校させる。私立学校の費用は市長が負担しろ。
・自分の子が親の言うことを聞かないのは、学校の指導が悪いからだ。 …。
いかがですか。現在の世の中の風潮なのかもしれないが、これらの要求を見ていると、あたかも商業サービスの消費者行動によく似ている。高いお金を払って買った商品が不良品だったときのクレームのように、教育現場のあれこれについて、いとも簡単に学校を責めるようになった。少しでも損をさせたら許さないという主張である。
さて、前述のドラマのタイトルですが、「モンスター」とは怪物のことで、「ペアレント」とは親のことである。この和製英語を文字通り解釈すれば「怪物のような親」という意味になる。学校ではどうにも対応できないクレームをつけたり、異常なまでに我が子のみをかわいがり、他の子はどうでもいい、関係ないという利己的な主張で、とてつもない言動を繰り返すことから、学校現場から恐れられこの呼称で揶揄されている親のことである。
2週にわたり現在の親の様々な行動や実態について書いてきましたが、次週からはその背景と原因について考えていきたいと思います。 つづく