「はやく」「はやく」どうして 監督 齊藤 秀樹
突然ですが、皆さんは動物園で実際にカバの顔を見たことがありますか。
ある動物園の調査によると、入場者が1つの動物を見学する時間は平均5~10秒だそうです。これでは動物の行動はほとんどわかりません。カバはいつも水の中に潜っていると感じている人が多いようですが、実は平均90秒、どんなに長くても5分以上は潜れないそうです。動物園でカバの顔が見れないのは、カバが水から顔を出すまでゆっくり待てないことが原因です。せっかく動物園に行っても、そそくさと先を急いで通り過ぎてしまう日本人の「ゆとりのなさ」がよく現れています。
そういえば大人が子どもに使う言葉調査のベスト3に「早くしろ」という言葉が入っていました。私たち教師もつい無意識に、「早く席について」「早く朝の会を始めて」「早く教科書を開けて」「早く片付けて」「早く集まって」「早く帰れよ」…。になってしまうことが多く、登校から下校まで「急げや急げ、早く早く」のオンパレードです。 まあ学校というところは、決められた時間の中で、常に集団が動いているわけですから、「かわいそうだ」とは思いながら、つい出てしまう言葉なのかもしれません。
では家ではどうなんだろうと、先日、学校訪問時の休み時間中の子どもたちを数人集めて聞いてみたところ、答えは「家でも全く同じだよ。大人って早く早くが好きなんだね。」ということでした。まずは「早く起きて」からスタートし、「早く顔洗って」「早くご飯食べて」「早く学校に行きなさい」で登校。帰宅後は「早く塾に行って」「早く宿題やりなさい」「早くお風呂に入って」「早く寝なさい」…だそうです。いやはや、子どもというのは大人のペースに巻き込まれて、毎日急かされ忙しい生活を送っているんだなとつくづく感じます。
子どもは幼く未熟なものです。こちらが何も言わないで放っておくと、何もしないでだらだらしているという面は確かにあります。しかしだからと言って、こんなに「早く早く語」を連発されてしまうと、子どもが「自分から何かをやろうとする意欲(自主性・主体性)」がどんどん無くなってしまいます。本来子どもは生まれながらにして個性的な存在ですから、その子の持っている良さや可能性は、じっくり時間をかけ、信じて任せてやらせてみてこそ、発見し伸ばせるものだと思います。教育の最終目標は、「一人ひとりに‘生きる力’を育成し、子どもを自立させること」ですから、私たちは「自らの力で考え、判断し、これからの社会をたくましく生き抜いていく力」を子どもたちに身につけさせる“余裕”を持つことが大切だと思います。
ウサギとカメの話ではありませんが、あまりに子どもを急がせすぎると、途中でバテてしまわないかと心配になる今日この頃です。