「しつけ」について考える② 監督 齊藤 秀樹
皆さんは『積木くずし』という本をご存じですか。今からかれこれ30数年前、中学生の「非行」が社会問題として世間を騒がせていた頃に出版され、300万部を超える大ベストセラーとなりました。この本は、ある有名俳優が非行に走った我が子を主人公に書かれたもので、その後テレビドラマ、映画、リバイバル版…が次々に出ましたので、ご存じの方もいるのではないでしょうか。
では、なぜこの本がこんなにも当時の親たちを夢中にしたのでしょうか。それは有名人が書いたからというより、親たちの中に「もしかしたら近い将来、家の子も…。ひよっとしたら明日にでも我が子が…。」という子育てへの不安が、とても他人事とは思えなかったからではないでしょうか。この本の中では、日に日に非行の度合いが激しくなる我が子と、その娘の一挙手一投足に戸惑い、悩み、オロオロするばかりの親の姿がしばしば出てきますが、これを読んでいくうちに、いつしか登場する親の姿と自分の姿を同一化し、「自分だったらこういう時にどうするか、どう扱えばいいのか、対処はできるのか…。」を一緒になって考え、探し、悩みながら読んでいったのでしょう。
しかし、私がこの本の中で一番興味を惹かれたのは、実は親と娘との葛藤場面ではなく、親が娘のことで相談に行ったカウンセリングの専門家(警視庁の心理鑑定技師)からの助言と、この助言を必死に守ろうとする両親との闘い場面でした。実はこの専門家からの助言というのは、両親にとっては「こんな馬鹿な。こんなことできるはずがない。」というものばかりだったのです。
では、専門家からまずはじめに出された助言を紹介します。
助言1…「子どもと話し合いをしてはいけない。」(親の方からは絶対に話しかけてはいけない。もし子どもから話しかけてきたら、相づちだけを打て。しかし決して意見を言ってはいけない。)
助言2…「子どもに交換条件を出してはいけない。また、子どもからの条件も受け入れてはいけない。」
助言3…「他人を巻き込んではいけない。」(どんなに悪い友人から娘が被害を受けても、決してその友人の保護者に抗議したり、会って相談したりしてはいけない。)
助言4…「日常のあいさつだけは、親の方からきちんとしろ。」(それに対して、娘がしなくても叱ってはいけない。)
助言5…「友人からの連絡があった時は、それがいかなる悪い友人からの、とんでもない誘いであっても、本人にその通り正確に伝えなければならない。」
いかがですか。専門家がこの親に何を求めているのかわかりますか。実はここからがおもしろいのですが、今週はここまでにします。次週はこの助言に込められた意味を説明していきます。