先日、アメリカの大リーグで活躍し、アメリカ野球の殿堂入りを果たしたイチロー選手を、新人時代から追い続け、その考え方や人物像について多くの著書を残している鹿屋体育大学の児玉教授の「イチロー思考」という講演を十数年前に聴き、当時大変勉強になった話を、久しぶりに思い出しましたので、今回はそれを紹介し、彼の成功の秘訣について考えてみたいと思います。
「イチロー思考」について考える 監督 齊藤 秀樹
今回は彼の持っている2つの力を中心に書いていきたいと思います。
【持続力】
よくイチローを天才だという人がいますが、イチロー本人は「自分は天才ではないし、天才なんて言われたくない。」と言います。彼は小学校5年生の時から父親に連れられてバッティングセンターに毎日通い、現役を引退するまで血のにじむような努力を積み重ねてきました。本人曰く「自分はバットを振るのは好きではないが、振り続けていないとヒットが打てなくなるので、毎日振り続けている」そうです。そもそも天才というのは“努力しないですごいことができる人”のことで、イチローは長年誰よりもたくさんバットを振り続けてきた「努力の人」ということになります。彼を見ていると「質より量を稼ぐこと(たくさんやること)が大切」だということ。「努力は裏切らない」ということ。そして何より「一番うまい人が一番努力したら誰もかなわない」ということがよくわかります。
【モチベーション(やる気)】
1つのことに熱中するためには「モチベーション」(やる気)を高め、維持し続けることが大切だと言われています。一般的にモチベーションを高めるためには「外発的動機」と「内発的動機」の2つがあります。
「外発的動機」というのは、①「金銭報酬」(その結果に見合っただけの金銭がもらえること)、②「地位」(実力や結果に見合った地位や役職がもらえること)、③「責任」(役立つ存在として頼られ、責任ある仕事を与えられること)等が考えられます。
それに対して「内発的動機」というのは、簡単にいうと「自己実現を図る」ことで、目標に向かって努力し、それを達成させる喜びのことです。イチローのモチベーションの根底は、何といってもこの「自己実現」へのこだわりです。完璧なバッターになりたいという思いから、彼は常に究極の自分を追い求めていました。9年連続200本安打という大リーグ記録を塗り替え、日本人としては前人未踏の4367本安打(世界記録)を達成した時でも、「もっと上手くなりたい」と日々思っていたそうです。
ある研究によると、「モチベーション」と「目標設定」の間には相関関係があるそうで、簡単に達成できる低い目標や絶対に達成できそうもない高い目標を設定してしまうと、モチベーションは極端に落ちてしまいます。一番いいのは、もう少しがんばれば達成できそうな目標(60%達成可能)の時が、一番モチベーションが高くなるそうです。
しかしイチローの場合は、達成可能な目標ではなく、遙かに届きそうもない高い目標設定することで、究極の自分を創り上げようとしていました。私たち一般人にはなかなかできないことですが、“一流になるということは、高い遠くの目標を持ち続けること”なのかもしれません。
さて、我が子を将来一流のアスリートや芸術家にしたいと考えている方は多いのではないでしょうか。「努力の大切さ」「自己実現へのこだわり」「目標を持つこと」等のイチローの生き方や考え方は大切なヒントを与えてくれています。