子どもの叱り方① 監督 齊藤 秀樹
「子どもをほめる」というのは大切な教育です。しかし、ただほめているだけでは決してよい子は育ちません。しつけの基本は「承認」(よいことは認められ、ほめられる)と「拒否」(いけないこと、ダメなことは禁止され、しかられる)の使い分けです。子どもはこの両方を経験を通して、しだいに自分の行動をコントロールしたり、自分自身の中に善悪の判断基準を形成したりしていきます。また、叱られるということは、裏を返せば「自分のことをいつも考え、心配し、大切にしてくれている」=「愛されている」という実感にもつながります。では、どのように子どもを叱ったらよいのかについて、2週にわたって考えてみたいと思います。
ここに「叱り方」のよい例がありますので紹介します。
(例1)
ある中学2年生の女の子がスーパーで万引きをしてしまい、学校に連絡が入ったので担任が引き取りに行き、担任が自宅に送り届けた時の話です。
玄関に入った瞬間に、待ち構えていた母親に「パチン。パチン。」とほっぺたを叩かれ、「あんたは何てことをするの。もう我慢できません。お父さんが帰ってきたら思いっきり折檻してもらいますからね。あんたなんか、警察でも施設でも何処へでも行ってしまいなさい。」そして更に「こんな近所のスーパーで万引きなんかしたら、折角買ったこの家にもう住めなくなってしまうでしょう。冗談じゃない。全く。」とものすごい剣幕で怒鳴られていました。女の子はその間、唇をかんだままじっとうつむいて、一切の返事もせずにふて腐れていたそうです。
(例2)
ある中学1年生の子が本屋で万引きをしてしまい、学校で担任と話した後、家まで送り届けた時の話です。家に入ると父親が奥の部屋で待っていて、父、母、本人、担任が向かい合わせの席に座りました。そして担任から本人に「今日あったことを自分の口から言いなさい。」と言うと、その子は涙ぐみながら「あのな…。今日な…。帰ったらな…。暇だったので本屋に行ってな…。」とボソリボソリと話し出しました。その間、父親と母親は目をつぶったまま膝の上に握りこぶしを置いてじっと子どもの話を聞いていました。そして一通り話が終わった瞬間、父親が畳の上に手をついて「先生。どんなにできが悪くても、こいつは私の息子です。どうか勘弁してください。明日きちっと本屋に一緒に行って謝らせますから。」と涙をボタボタこぼして言ったそうです。その姿を見た息子はビクッとして「お父さんごめんなさい。許してください。もう二度とこんなことはしませんから。」と、父親に抱きついて泣いて謝ったそうです。
さて、この2人の親の叱り方はどこが違うのでしょうか。
確かなことは、前者の母親の「体罰、脅し、泣き落とし、世間体」という叱り方が全く娘の心に入らなくて、後者の父親の「どんなにできが悪くても、私の息子です。」が、なぜ心に響いたのでしょうか。この例は、私たち大人が子どもをどう叱ったらよいかの大切なヒントを与えてくれています。皆さんはわかりますか。
つづく